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イカとクジラ


イカとクジラ(THE SQUID AND THE WHALE)
監督:ノア・バームバック 2005年 アメリカ

監督自身の経験をもとに書かれた自伝的映画。両親が離婚する話。両親の離婚を機に共同監護システムのもと、父の家と母の家を行ったり来たりする二人の子どもの精神的成長や、家族一人ひとりの人物が丁寧に描かれている。

『イカとクジラ』というタイトルは、長男のウォルトが子どもの頃に見た自然博物館にある大きなイカとクジラが格闘している模型のこと。彼は子どもの頃はこの模型を見るのが怖くてしっかり見ることができなかったかが、ラストシーンでは、一人でこのイカとクジラの模型を見に行きます。イカとクジラというのは恐らく、ウォルトの両親のことを表しています。ここで映画は唐突に終わりますが、これはウォルトが冷静に両親のことを見ることができるようになったということを表していると思いました。

両親が不仲なのは、子どもをものすごく不安にさせます。私も子どもの頃両親がそうだったからそこは共感しました。言い合いをしている声が1階から聞こえてきて、自分は寝に上がったけど不安で眠れないとかね。自分のことも思い出しました。離婚によって見えてくる様々な嫌な面、(母が浮気しているとか、父が大学生を家に呼んでなんかヤッってるとか)そういうところをすごく嫌になるくらいリアルに描き出していて、嫌なんやけど、人間てそうやんな、と思わせる映画でした。

この映画を見ていて、ベルイマンの『ある結婚の風景』を思い出したのだけど、あの映画は夫婦の結婚生活にスポットをあてじっくり描き出したという感じなのだけれど、『イカとクジラ』では、それに子どもたちの視点も加わってもうちょっとコメディっぽくした感じで描かれている。実際、監督のインタビューを聞いていると、美術監督のアン・ロスが『ある結婚の風景』みたいな壁の色を再現したい、と母の家のほうの壁を茶色にしてそれを“ベルイマン・ブラウン”と呼んでいた。ベルイマンを思い出したのはこの壁の色もあったんだなと思った。

子どもにとって親は絶対的な存在で、その親が離婚をするとなると子どもは不安になる。しかし、親も一人の人間であるわけで、ダメな部分もたくさんあり、そういうところを見て、子どもは、親のことを客観視できるようになるんだなと、自分の経験も含め思った。そして、そういうときに子どもは成長する。

でも、やはり親の問題でも子どもは否応なしに巻き込まれるから、子どもはかわいそうだなといつも思う。

映画内では、『ママと娼婦』のポスターや『勝手にしやがれ』のベルモントのマネ、“ベルイマン・ブラウン”や『大人は判ってくれない』のオマージュであるようなシーンが出てくる。『ママと娼婦』のポスターに関しては、本当は『欲望』のポスターを監督は使いたかったそうだが、使用料が高くて諦めたそうだ。このような小ネタもあるので、ヌーヴェルヴァーグの映画が好きな人は本作を楽しめると思う。

また、本作はレンタルしたのだが、監督のインタビューや、対談集、メイキング映像など本編以外にも、本作をより深く知るための映像や音声が入っていて、それもよかった。特に監督の音声解説は、通常の映像を流しながら話すというものではなく、監督が映画で伝えきれなかった話や、秘話などを話してくれる形で撮られていて、(監督が意図的にそうしている)普段とは一味違う解説が聞けたのも嬉しかった。それほどまでに、監督にとって思い入れのある作品で、また良いものができたんだろうと思った。

家族、親という普遍的なものをテーマに据えた本作であるからこそ、見ている観客は嫌な気持ちにもなり、共感もし、そのような自分自身に返ってくる映画(自分自身の家族について考えてしまう映画)になっている。自分は家族のことを考え過去を思い出し、身にしみる映画でした。


ほな、また



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