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アマゾンの読経


アマゾンの読経 
監督:岡村淳 2004制作 2006年改訂 ブラジル/日本

1986年9月、一人の日本人旅行者がアマゾン奥地で失踪した。
その人の名は藤川辰雄、肩書きは伊豆大島富士見観音堂守。
以前は日本海外移住家族会連合会の事務局長として、中南米の移住者の援護を唱え続けた人だ。
藤川はアマゾンで亡くなった日本移民たちの無縁仏の供養をする巡礼の旅の途中で、行方不明となった。
現地当局は、藤川はアマゾンの支流で水浴中に溺れて猛魚に食べつくされたものと判断して、捜索を打ち切った。
折りしも岡村は日本からテレビドキュメンタリー制作のためにブラジルに派遣され、アマゾン各地の取材中だった。
後年、自らブラジル移民となってからこの事件を知った岡村は、藤川が最後に残したメモを頼りに関係者を訪ねる決意をする。
岡村は日本と南米を何度も往復しながら、藤川の謎の失踪の真相と、各地に埋もれていた移民秘史を発掘していく。(岡村淳のオフレコ日記より引用)

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5時間以上にもわたるこの超大作を見てきた。
見終わっていろいろ考えたんやが、印象に残ったのは、岡村監督が藤川さんの周りの人々に細かくインタビューすることで、実際はいない(亡くなった)藤川さんの人物像が周りの人々によってあぶり出されていくところが面白かった。

人それぞれの見方によって三者三様の藤川さんがいて、藤川さんが生命保険を妻に残すために死んだという意見や、生命保険の話は聞いたことがないという意見や、様々な憶測や噂が飛び交っていたり、真実はどうなのかわからない部分もある。

これは私個人の意見なのだが、藤川さんに対して、私は勝手だなあと思った。晩年、胃潰瘍に苦しみ、食べ物も食べることができず大変苦しまれたそうだが、肉体の苦しみから解放されたかったのではないかと思った。日本人の移民のために全精力を尽くし、日本人移民の無縁仏に心を痛められ、その供養に身を捧げられた...といえば聞こえはいいが、実際は、どうだったのか...自分自身も自分の死ぬ姿を誰にも見られることなく、アマゾンの川の中で、日本人移民の方々の魂と同化したかったのではないか、即身仏じゃないけど、藤川さんの中では、自分の死に方のエピソードがずっと前から決まっていて、それに沿うように死んだのではないのか、などいろいろ考えた。

人々のインタビューを聞いていると、結構、藤川さんの性格がワンマンな印象を受けた。伊豆大島の富士見観音像を建てる際も、妻と別れるかという話になったことや、最初は人を寄せ付けなかったという話、それらを聞くと、藤川さんの中には、自分がこうやりたいという理想があって、それを実行するためには、どんな犠牲も厭わない、そんな印象を受けた。今回の入水に関しても、その感覚はあったのではないかと思った。

劇中では、岡村監督が藤川さんに関係のある人々にインタビューをしてくのだが、生き残った人々(ブラジル日本問わず生き延びた方々)は皆すごく生き生きしてるのが映像越しにも感じられた。生き延びるほうが死ぬよりも大変なことで、生きることで起こる様々な苦難をこの方たちは乗り越えてこられて、それで、このインタビューに答えているんだなとインタビューを受ける方々の過去や、生きてこられた道に思いを馳せた。

藤川さんの生前にやってこられたことも、大変なことで、日本移民の方のために全力を尽くされたのだと思うが、その藤川さんよりも、藤川さんについて語る人々のほうが生き生きと輝いて見えた。

藤川さんの妻が亡くなられた後に、観音様の世話をしていた佐々木美智子さんの「藤川さん、戻ってきてよ!アンタが始めたんだから、最初と最後くらいはなんとかしてよ!」という言葉もすごく印象的だった。日本人移民のために富士山の見えるところに富士見観音像を建てて、その魂を供養する、ということはすごいことだが、その観音様の世話や掃除など自分がいなくなったあとはどうするつもりだったのか、妻に託すとはいえ、妻も亡くなった後はどうするのか。
こういうところも勝手だなあと思った。観音様という"物質"に拘る必要はあったのか。ただ祈るだけではダメだったのか。何かを形にして残したいという思いがあったのかもしれないが、その後の始末、やりっ放しというのも何だか勝手すぎる気もした。自分の思いをこれからもずっと伝えていって欲しいと願っていたのではあると思うが、じゃあなんでそれを伝えずに死んだんや...。

藤川さんに対して思うことはいろいろあれど、もう亡くなられた方なので、その本心は聞くことができない。岡村監督がフラットな姿勢で、インタビューされたことにより、私は藤川さんのことをいろいろ想像することができた。

何が書きたいのかよくわからなくなってきましたが、私としましては、故人にこんなこというのも申し訳ないんですが、藤川さんが勝手だなあというのと、富士見観音の今後の行く末が気になります。『アマゾンの読経』のその後の話『焼肉と観音』がすごく見たいです。
日系社会のことはほんの少ししか知らないのですが、日系人の1世、2世、3世では、育ってきた境遇や土地や言語など大変差があり、一様に比べられないと思います。日系社会にはこのような歴史は世代間で伝わっているのか気になります。私のような日本人には全くといっていいほど触れられない歴史です。今回はこの映画を見たことで、藤川さんという人物がいたこと、日本人移民の生き様が、生きた人々の語りを聞きました。それを聞けただけですごく貴重な経験ができたと思います。

岡村監督の作品は本作と『ギアナ高地の伝言 橋本梧郎南米博物誌』しか見ておりませんが、どちらも大好きな作品なので、他の作品も今後も見に行きたいです。

ほなほな

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