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ファニーとアレクサンデル



Fanny och Alexander 


監督:イングマール・ベルイマン 1982年 スウェーデン








 この映画を見るきっかけになったのはある一枚の切手からである。
 その切手はスウェーデンの切手で、ベルイマンが監督している映画の撮影風景をあしらったものだった。後にこれが、ファニーとアレクサンデルの映画の撮影風景だということを教えてもらい、これは観なくては、という衝動に駆られBDを購入した次第である。5時間もある大作なので、丁寧にじっくり観た。また久々に観るベルイマン作品でもあったため、大変期待していた。

 物語はエピローグから始まり最後のプロローグまでその間を5部に分けて構成されている。この物語はエクダール家のクリスマスパーティーから始まり、その一族をめぐる2年間の物語である。
 
 【第一部 エクダール家のクリスマス】での最初の豪華なクリスマスパーティーのシーンにはさすが本場は違うな、と思わざるを得なかった。豪華な食事の乗ったテーブル。広い屋敷、赤い上等そうなカーテン。本場のクリスマスを存分に見ることができる。
 
 【第二部 亡霊】で特に印象に残っているのは、やはり、父の亡霊が出てくるシーンである。白いスーツを着た父がピアノを弾いている。怖くないはずなのに、なぜかその光景は異様で、ぞっとした。この辺りからぐいぐいベルイマン節やなあと思うようなシーンが登場し、この作品に引き込まれていった。母が夜中に泣き喚いているシーン、中央の扉の隙間からちょうど父の棺が見える。その前を往復しながら泣く母の姿、そしてその構図も大変印象的だった。
 
 【第三部 崩壊】では、ここから物語は最悪の方向へ向かうのではないかという不安を抱きつつ観た。
 まず、主教と母の距離が近づくに連れて、アレクサンデルと同じような嫌な気持ちになった。これは主教に対する嫉妬も少しはあるやろうけど、それよりも、主教が母をどんどん支配していく様子がどうしてもしんどかった。そして、エクダール家の屋敷とは対象的に主教館のお化け屋敷みたいな雰囲気、寒そうで湿気もすごそうな様子から、母、アレクサンデル、ファニーのことを本当に可哀想だと思った。特に子どもが何もできなくてついていくしかないから遣るせなかった。
 しかし、後々よく考えると、主教自身も孤独で、自分に張り付いた仮面は肉に食い込んでいて剥がせない、と言っていたことから、主教自身も孤独で哀しい人で、人を自分の思うように支配することでしか、幸福感や満足感を感じられなかったのかもしれない。可哀想な人だと思った。けれども、いくらそうやからといっても、それを人に強要するのは絶対おかしいし、それが真実のように語るのは違うと思う。でも、そういうふうに振る舞う主教のような人は世の中に大勢いるので、これは現実世界で往往にしてあることだよなあと、ハニーオールドファッションを食べながら考えた。世の中おかしいのである。

 【第四部 夏の出来事】では、子供たちの安否を心配する父の亡霊が再び現れる。主教のアレクサンデルに対する虐待はエスカレートし、しつけという名の征服といった感じでアレクサンデルを鞭で叩いたりしている。母ももう主教と離婚したがっているのだが、それはさせないと主教に言われ、もう泥沼展開である。ここが一番嫌な気持ちになった章である。息が詰まりそうな空気が終始漂っているのである。

 【第五部 悪魔たち】で、母はイサクに相談し、子どもの救出を試みる。ここでカールとグスタヴが主教にエミリー(母)との離婚を促すように説得しに主教館を訪れるのだが、この場面で初めてカールのことをかっこいいと思った。グスタヴを抑えて冷静に交渉しようとしていたところなどがそう思った。脱出した子供たちはイサクの甥のアーロンの人形劇場に匿われる。そこで出会ったアーロンの弟のイスマエルという人物も、これもまたかなり魅力的な人物だった。デヴィッド・ボウイの若い頃みたいな雰囲気で幽閉されているという怪しすぎる設定で、兄と絶対何かあるやろうと即座に理解した。そして、アレクサンデルと二人きりになったときは、危ないとはらはらしたのだが大丈夫(?)だった。アレクサンデルの空想と同じように、主教館から火が出て、主教は亡くなった。怖かった。解放されたと思った。

エピローグ
 エクダール家に戻ってきた親子3人はまた2年前のように皆で夕食を囲んで祝賀会を開催している。皆、この2年間で数々のことを乗り越えて、幸せを噛み締めているようだった。そんな中、アレクサンデルは亡き主教の亡霊に出くわす。死んでからも支配したいようだった。祖母のヘレナのもとに逃げ込んだアレクサンデルにヘレナは本の一説を読み聞かせる。
“どんなこともあり得る  何でも起こり得る  時間にも空間にも縛られず  想像の力は  色褪せた現実から  美しい模様の布を紡ぎ出すのだ  ”

 観終わって、ついにこの長編を観終わってしまった、観終わってしまったんや...という気持ちになった。ぼちぼちと何日間に分けて堪能してきたこの甘美な時間が終わるんか、と大げさかもしれへんがそれくらい思った。
 長いんやけど、あんまり自分は長さを感じなかった。むしろ後半は一気に見てしまった。ベルイマンの集大成と言われるだけのことはあるなと思った。人間模様、人間の深い部分を描いているところがやっぱり好きなところやった。今年の一番印象に残ってる映画。

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