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キャタピラー


 


 “『ジョニーは戦場へ行った』と江戸川乱歩の短編小説『芋虫』をモチーフにしたオリジナルストーリー”とwikiには書いてあった。私がこの作品に興味を持ったのは、映画の宣伝の時に乱歩の『芋虫』を映画化したというようなことを聞いた覚えがあるからだった。乱歩の『芋虫』と言えば、自分自身大変印象に残っている作品で、乱歩作品の中でも特に変態的な、その何ていうか、須永中尉の妻の変貌っぷりというかサディスティックな嗜好というか、そういう肉欲とか支配欲とか征服欲とか全てが綯い交ぜになっている、そこがこの『芋虫』という作品の好きなところであった。それでいて、心が締め付けられるような、気持ちが縛り付けられるようなシーンもあって、そういった私自身の気持ちを翻弄される、あんな短い小説なのに、これほどまで揺さぶる小説はなかなかないなと思っている作品だった。
 そんな期待があって見たからかもしれないが、この『キャタピラー』は映像を見た時から何かしっくりこなかった。達磨のようになった須永中尉の身体にもどこか私自身違和感を覚えた。実際は、そういう身体なんやろうけど、想像していたものと違った。『芋虫』ではたしか、中尉があの身体で独楽のように動き回るシーンがある。それは物理的には映画ではできなかったのかもしれないが、そのシーンは小説では印象的であったので、そのシーンがないことは少し映画が物足りなかった。他にも映画では須永中尉自身が、自分が戦場で女性を犯しているのやが、そのシーンが自分が妻と性交している時に自分が犯されるように頭に甦って、発狂するシーンが何度もあるんやが、これが何度もありすぎてしつこいと思った。唐突に何回もいきなり、その強姦シーンがバーンと出でくるので、もうそれはわかった、と言いたくなった。このシーンは『芋虫』にはないシーンやが、自分が妻に犯されるのは、自分が戦場で女性を強姦した報いだった、と映画では言いたかったのかもしれへんけど、それはこの妻からの性交を正当化したいだけじゃないか、と映画に対して思う。『芋虫』では、妻がそんなこととは関係なしに変態的な性交に目覚めて、ありとあらゆることをしつくす、そういう話だったと思うので、そこが面白いところやのに、それを歪めてまで、映画で性交のシーンを何回も持ってくる意味はあるんかなどと考えてしまった。
 中尉と妻の愛憎についても、もう少し繊細な部分も取り上げて欲しかった。映画の最後はあっけなさ過ぎて、これでは戦争に負けたから死んだというふうに取りやすくされていて、そこじゃないやろ!と声を大にして言いたくなった。戦争で四肢を失いはしたかもしれへんけど、この話は、それとはまた別の、それもあったかもしれへんけど、それとはまた別の、別の性的嗜好のそういう話やろ、と、熱くなってしまうほどの消化不良の作品だった。これは私自身が乱歩の『芋虫』に思い入れがあったからこう思ったんやと思うんやけど、この『キャタピラー』だけ観るとそれはそれで良かったんかもしれんけど、wikiに書いてあるような、“戦争に翻弄された1組の夫婦の姿を通して戦争がもたらす愚かさと悲劇を描いている。”わけではないと思う。

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『キャタピラー』 2010年 日本

監督:若松孝二

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